有閑倶楽部活動  1

考えれば考えるほどそこは退屈な空間だった。一般的な男子大学生がすむアパートの一室を思い浮かべていただきたい。六畳ほどの空間にアルミサッシの窓、そこから入る夕暮れの日差し、散らかった机、使用感の出た椅子、本棚、洋服ダンス、飲みかけのペットボトル、ベッドとその上のたたまれた布団、埃を被ったギター。全てが有り触れていて非常に退屈だ。ただその空間において唯一つだけ決定的に退屈でないものがある。腕である。
腕、正確にいうと肘から手の部分であり、右腕のようだ。見るに体毛は薄く、色白で細く指も節くれが少ない事から若い女性のもののように思われる。何一つ欠けてない腕としては全く完全である。ちょうどベッドの上から腕部中央から下の部分が生えてきたように置かれているため断面は確認できない。周りに血痕はない。ただ腕がそこにおいてある。ないのはこの腕の根元。つまり肩であり胴体であり女だと思われている腕の持ち主だ。腕自体には何の変哲もないのにくっついている筈の“モノ”がないためにこの腕は非常に奇妙に見えるのだ。だから男はひどく狼狽した。大体いつもどおりの時間に帰宅し朝出てきたままの部屋の光景を期待していた、テルオである。


続く